• 放送・映像へのIP技術の適用(4)

 
 
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放送・映像システムへのIP技術の適用検討が本格化してきました。適用検討の本格化にともない、ユースケースを想定したテストも活発に行われるようになりました。こうしたテストは、机上では想定できない隠れた問題を抽出してくれます。これらの問題の解決により、IP導入のノウハウが蓄積され、IP技術の適用は益々加速するものと考えています。前回に続き、今回もPTPに着目し、そこに潜む注意点と解決方法を紹介していきます。

IP技術の適用は、放送・映像システムに大きな変化をもたらします。映像・音声信号のパケット化により、1本のケーブル上で伝送帯域が許すかぎり、複数の映像・音声信号の送受信が可能になります。さらに、ネットワークを介して同期信号(PTP)の配信が可能になります。ネットワークには、映像や音声などデータ特性や技術部門や営業部門、物理的な場所を単位にネットワークアドレスを分割する(ネットワークアドレスの割当)ことが一般的です。ネットワークを分割することでネットワークを流れるトラフィックを最適化することが可能になります。ここで注意しておきたいのは、ネットワークの分割とPTPの配信の考え方が異なることです。

VLAN aware PTP Boundary Clock

ARISTA EOS4.22.1から、VLAN aware PTP Boundary Clockがサポートされました。この機能を有効にすると、VLAN Trunk ポート上で任意のVLANを介してPTPメッセージ(general message, event message)の送受信が可能になります。この機能を活用するには、ARISTA EOSのPTP動作を理解したうえでPTP配信ネットワークの設計が必要になります。

EOSのPTP動作

EOSが動作するデバイスは、単一のPTPドメインに属します。PTP Announce Messageを利用してClock Propertyを交換することで、所属ドメイン内のPTPデバイスとの間でMaster/Slaveの関係を確立します。さらに、BMCAによってドメイン内で最も優位なClock PropertyのClockを選出し、ドメイン内のデバイスの同期を行います。EOSデバイスは、デフォルトVLAN(Native VLAN=Trunk Port上でVLANタグを付与しないVLAN)上でPTP General message, Event messageを送受信しています。Native VLANのVLAN IDは、” 1″です。EOS4.22.1からサポートしたVLAN aware PTP Boundary Clockは、Native VLAN以外のVLANでPTP メッセージの送受信を可能にしています。

ネットワークデザインとPTP

EOSデバイスは、単一のPTPドメインをサポートします。したがって、BMCAも単一のドメインをサポートします。デバイス単体で(物理的に)PTPの機能を提供することになります。デバイス単体が、トラフィック特性や組織といった単位を前提にネットワークアドレスを割当、ネットワークアドレスごとにVLANを割当、VLAN Trunkを利用して1本の回線上に複数の映像・音声の送受信をしていても、PTPメッセージの交換は、物理デバイス単位で送受信することを前提にしています。(グループ単位にPTPを有効にする必要はありません) VLAN Trunk Portを介して他のデバイスと接続するケースを考えてみましょう。EOSデバイスは、物理デバイス単位でPTPメッセージを送受信しますので、VLAN Trunk PortにTrunk(多重)されるいずれかのVLANでPTPメッセージを送受信すれば良いことになります。

ここで映像・音声、部門といったグループに着目すると、グループ毎にPTPを有効にする必要があると考えがちです。EOSデバイスでは、複数のグループ(VLAN)で同時にPTPを有効にすることはサポートされていませんが、周辺デバイスが複数のグループでPTPを有効にした場合(EOSは、複数のVLANからPTPメッセージを受信する)、どのように動作するのでしょうか。

 

2台のPTPデバイス(1台がARISTA EOSデバイス)が、1本のケーブルで接続されます。このケーブル上に複数のVLANがTrunkされています。EOSデバイスは、VLAN3でPTPが有効になっています。このとき、隣接デバイスではVLAN3以外でもPTPが有効になっていると想定します。

実際の動作

それでは、EOSデバイスが、周辺デバイスの複数グループ(上記のシナリオを前提にすると、VLAN3以外)からPTPメッセージを受信した場合、EOSがどのように振る舞うか確認しましょう。

EOSデバイスは、Announce Messageを利用して接続するPTPデバイスのClock Propertyを入手します。一般的にPTPデバイスは、Announce Messageの交換により、Master/Slaveの関係を確立します。一旦、Master/Slaveのステータスが確定すれば、Announce Messageのカウンタは、送信か受信の一方のカウンタのみが増加します。複数のグループ(VLAN3以外から)でPTPメッセージを受信するとEOSが期待するVLAN(VLAN3)以外からもPTP Announce Messageを受信することになります。このため、PTPポートステータスが決定してもAnnounce Messageのカウンタは送信、受信ともに増加します。

Interface Ethernet53/1
PTP: Enabled
Port state: Master 
Sync interval: 0.125 seconds
Announce interval: 0.25 seconds
Announce interval timeout multiplier: 3
Delay mechanism: end to end
Delay request message interval: 0.125 seconds
Transport mode: ipv4
Announce messages sent: 363782
Announce messages received: 324387
Sync messages sent: 723192
Sync messages received: 16306
Follow up messages sent: 723180
Follow up messages received: 16295
Delay request messages sent: 16295
Delay request messages received: 575952
Delay response messages sent: 575952
Delay response messages received: 0

EOSデバイスは、Announce Messageを継続して受信することにより、Clock Propertyを比較し続けなければならず、PTPエージェントがCPUを占有し続けてしまいます。この結果、PTP Boundary Clockとしての機能に影響を及ぼすことが懸念されます。(Boudanry Clock配下のSlaveに対するPTPメッセージの配信など)

考察

EOS PTPは、単一のPTPドメインをサポートします。BMCAについても単一のプロセスを実行しています。論理グループ単位(マルチテナント毎)にPTP機能を提供することを想定していません。VLAN aware PTP Boundary Clockを利用するとNative VLAN以外でPTPメッセージの交換が可能になりますが、VLANごとにPTPメッセージを交換することを想定したものではありません。VLANを利用すると仮想的に単一ケーブル上に複数グループのデータ送受信を可能にしますが、PTPは、グループ単位で考える必要はなく、グループ内のいずれかでメッセージ交換できれば問題ありません。

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